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***山田としお メールマガジン No.210***
2011年1月17日号
山田としお公式ホームページ
(http://www.yamada-toshio.jp/)
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駆け足でヨーロッパを訪問
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1.「担い手をどう作り上げるか」が問題意識
正月早々、新聞紙面が農業と農協批判で埋まっています。全く議論
も政策も無くTPP参加を言い出し、「すべての品目を自由化交渉の対象
にしながら農業振興を両立させる」と詭弁を弄し、それに抵抗する農
業を攻撃し、農業と工業を対立させ、マスコミを煽るという構図をつ
くり上げてしまっている菅総理には心底から怒りを禁じ得ません。こ
れまで長い時間をかけて取り組んできた「食」と「農」の国民合意を
破壊しており、悲しいことです。
こうした中、賀詞交歓と国会開会までの間を縫ってヨーロッパを訪
ねました。目的は、TPPがあろうとなかろうと、高齢化が進み生産力を
落としているわが国農林漁業をどう力強いものにしていくか、あらた
めて、担い手をどう作り上げるか、自民党の「担い手総合支援新法検
討プロジェクトチーム」の座長に就任し、この3月までに案を作る役
目をもらった私としては、これまで関心と疑問を抱いていたヨーロッ
パの取り組みを確認しておきたかったからです。
ヨーロッパは1960年以降、構造政策を推進し、1990年以降のCAP改革
とも連動した一層の構造政策の推進で、経営規模の拡大や、若手新規
就農者の増大を実現しました。そのヨーロッパの政策推進の内容や成
果、さらには問題点や将来展望をヒアリングし、わが国の政策に活用
できるものは活用してゆきたいという問題意識がありました。
より具体的には、次の政策の成果と課題を重点的にヒアリングしま
した。
(1) 青年農業者就農助成制度
(2) 農業社会共済年金制度と離農助成金制度
(3) 農村土地整備公社(サフェール)の役割
(4) 1992年のCAP改革と早期引退制度の評価
2.7つの印象
訪問先は、ブラッセルでは、COPA-COGECA(欧州農業団体連合会・欧
州農協連合会)、CEJA(欧州青年農業者団体連合会)、欧州委員会、
コペンハーゲンでは、農業・食品加工・流通団体を統括しているデン
マーク農業・食品理事会、パリでは、フランス青年農業団体連合会、F
NSEA(フランス農業団体連合会)、フランス農業会議所です。また、パ
リに本部を置く国際機関OECD(経済開発協力機構)も訪問しました。
実質4日間でこれら関係先と精力的に意見交換してきました。
詳細なやり取りは別にまとめることとしていますが、ともかく印象
だけを言うと、以下の点が挙げられます。
(1) 一致している政府・団体・農業者の問題認識
一つは、ヨーロッパの農業団体、青年組織、EU政府が同じ問題意識
を持って、共通農業政策の改善、新しい技術対応、生産性向上、生物
多様性や温暖化等の環境問題に取り組もうとしていることです。COPA-
COGECAは、しっかりとEU委員会、EU議会に働きかけているということ
であり、EU農業総局の幹部もその必要性を認めていました。一体、民
主党政権のわが国の状況はどうか、恥ずかしくなりました。
(2) 青年農業者の就農支援が政策の柱
二つは、青年農業者就農助成制度は、年齢が21歳から35歳までに限
られ、事前に3〜5年間の技術や経営研修、さらには農家実習を積んだ
者だけを対象とし、就農にあたっては、営農が可能な一定規模の農地
の確保や、国と自治体が半分、EU政府が半分という就農資金を提供す
るという厳格なものです。実際に農業経営を行うことが条件であり、
農場のそばに住み、かつ毎年経営実態を報告する必要があります。投資
目的で農地を取得することは絶対に認められません。また、農外からの
新規就農だけでなく、大半は子が親から経営を引き継ぐ形ですが、その
場合でもこの仕組みにより就農することになります。わが国にどう適用
できるか、徹底して詰めたうえで実施したいと強く受け止めました。
(3) 高齢農業者の早期引退と連動
三つは、1992年のCAP改革と関連して、高齢農業者の早期引退と青年
農業者の就農促進のための早期離農年金措置が講じられ、54歳以上60
歳未満について年金の支払いと経営移譲が進められました。フランスで
は、1992年以降132万ヘクタールの農地が移譲され(全農地2,800万ヘク
タールの5%程度)、その大半は規模拡大と青年就農者に活用されてい
ると聞きました。それでも、EU農業総局では、早期離農促進と青年農
業者就農の支援が必ずしも十分な成果をあげていないので、そのため
の改善策を検討しているということです。わが国では、ヨーロッパよ
りも強い私有財産意識のなかでどの程度可能か、財源の確保も含めて、
この仕組みを導入できるかどうか検討を深めたいと考えています。
(4) ゾーニングと税金で転用を規制
四つは、これは私の強い問題意識でもありますが、都市計画制度や
農村農業地域の規制や運用がどうなっているかということです。国によ
り国土条件が異なるため強弱があるとみられましたが、地域のゾーニン
グによる農村区域の設定と転用の規制があり、道路等の公共的なインフ
ラ整備を目的とする国等の買い入れはやむを得ないものの、転用には大
きな税負担が課せられることで転用を抑制しているということでした。
都市と農業地域の区別がつかなくなっているわが国ではどう運営できる
のか、これも詰めが必要です。
(5) 農地は農業のための大切な資産という意識
五つは、これも私の強い問題意識でもありましたが、ヨーロッパの
農業者や国民に、例えば、農地は「天(神)ないし領主(国王)から
預かったもの」、いわば「社会的な所有」という意識があるのかない
のかということです。これについては、国によって多少異なるとこ
ろもみられましたが、「財産である農地を後代へ適切に引き継ぎた
い」「農地の所有意識よりも農家としての仕事の資産という意識であ
り、それをどううまく活用するかというということを優先する」とい
うことのようでした。
ただし、EU農業総局では、農業生産のための公的資源として農地の
確保をはかるということだったし、フランスでは、農業就業者による
生産の確保のため、そして環境に配慮した農村空間の整備をはかると
いう問題意識を強く感じました。
(6) 農村土地整備公社(サフェール)が農地の移動に深く関与
六つは、サフェールについては、農地を交換分合で集積したり、先
買権を活用して青年農業者へ優先的に売り渡したりできる公的な仕組
みを有しており、先買権を活用して年間8〜10万ヘクタールを先買し、
それは農地移動の20%を占めているということです。
サフェールが農地を売る場合は、それを公表し、候補者が手を上げ、
関係者が協議して売り先を決めます。こうして、農地を農地として守る
ために役割を果たしています。わが国でもこうした取り組みを行っては
いますが、より強化された仕組みが検討されてもよいのではないかと考
えています。
(7) 日本のTPP参加協議は欧州にとってもマイナスと明言
七つは、わが国のTPPへの参加協議についてですが、COPA-COGECAか
らもEU農業総局からもこれを危惧する声が出されました。
COPA-COGECAは、「日本のTPP参加という政策変更は、日本の農業だ
けの影響でなくて、欧州の農業にもマイナスの影響を与える。欧州の
中における自由化論者に強い影響を与えるからだ。今まで日本がWTOの
農業交渉でとってきた行動は、欧州の農業者にとっては受け入れられ
るものであった。しかし、TPP参加では欧州の農業者にとってもマイナ
スだ」と言います。
また、EU農業総局では、「日本はTPP参加で米国や豪州とどう交渉す
るのか心配だ。果たして対応できるのか。まして、非常に野心的なス
ケジュールだが慎重に進めるべきでないのか。農業生産者の利害を損
なわせてはいけない。経済界等からの自由化圧力があるにしても農業
もTPPに入ることについては慎重であるべきだ」と、「慎重」であるべ
きと言葉を選びながらも、それは「馬鹿じゃないの」という言い方な
のだろうと私は受け止めました。
一方で、両者とも、TPPよりもFTA・EPAの方が柔軟性とバランスが持
てるし、EUと日本の間で農産物だけでない包括的な交渉を進めましょ
う、という主張がありました。また、両者とも、「TPPに参加すると言
っている日本は、これからのWTO交渉にどう参加するのか」と心配もし
ていました。
本当に、これまでのWTO交渉において「多様な農業の共存」と、主張
を同じくしてEUとも連携してきていた日本は、「どんな顔をして」今
後のWTO交渉に臨むのでしょうか、私も心配です。
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